笠井信輔の「映画がいっぱい」

 ミッシング   悪は存在しない  劇場版「鬼平犯科帳 血闘」

 

 自分が出演したゴジラ映画がアカデミー賞を取るなんて、こんな幸せはありませんでした。その興奮も冷めやらぬまま4月26日、ハリウッドゴジラの新作「ゴジラ×コング」が公開! 今度は日本語吹き替え版アナウンサー役で登場します! 観てね。

  ミッシング

愛する娘が失踪した-
壊れた世界の中で、光を見つける<わたしたち>の物語

 真綿で首を絞められるような感覚というのはこういうことを言うのだろう。

 幼いかわいい娘が行方不明になると、夫婦は、家庭は、どうなるのか? 母親役の石原さとみは新境地。心が壊れてゆく母を入魂の演技で見せる。自らも母となったことがさらに演技の幅を広げたのは間違いないだろう。常に不安とストレスを抱え、少しのことで暴発してしまう。それを何とか受けとめようとしながらも戸惑う夫(青木崇高)がこれまたいい。きっと私もああなるのだ。そして妻との溝がどんどん深まってしまう。

 行方不明事件のご家族の取材経験があるのでよくわかるが、𠮷田恵輔監督の取材量は相当なものだ。まるでドキュメントフィルムのようにシビアな状況をリアルにあぶり出す。観客はまるで親族のように固唾をのんで見守ってしまう。マスコミの描写も悲しいかな、ああいうことが起きている。


Ⓒ2024「missing」Film Partners
5月17日(金)全国公開

  悪は存在しない

観るもの誰もが無関係ではいられない。
これは、君の話になる-

 この物語る力は何なのか!見るものを引きずり込む会話劇。濱口竜介監督がまたやった。

 静かな山村に東京の芸能事務所が最新のキャンプ場を作る計画を立てたことで広がる波紋を、住民感情の心のひだを、深く掘り下げる。通常は紛糾する住民説明会を静かに徹底的に描くことで、かえって魅力的なシーンに仕上げる驚き。併せて、開発者側の心境をなんとも言えない車の中の会話で際立出たせるのはさすがに「ドライブ・マイ・カー」の監督だ。「ミッシング」同様、少女のシーンから始まり、少女の動きから目が離せなくなる演出で全編に緊張感が漂うのも見事。そして…。

 アカデミー賞で山崎貴監督が注目されたが、「世界の濱口」も忘れちゃいけない。本作でベネツィア国際映画賞銀獅子賞を受賞!アカデミー賞と世界三大映画賞すべてを獲得した黒澤明監督以来の大監督になったのだから。



Ⓒ 2023 NEOPA / Fictive
4月26日(金)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下 ほか全国順次公開

  劇場版「鬼平犯科帳 血闘」

松本幸四郎の「新たな鬼平」がスクリーンに!
悪を知って外道に落ちるか、悪を知って外道を憎むか-

 やっぱり本格時代劇はいい! コメディ、ミュージカル、イケメン、若者向けと、近年はさまざまなアレンジで制作されている時代劇。昨年「藤枝梅安」の出現に喜んでいたところ、ついに「鬼平」の登場だ。勧善懲悪の切ったはったはさすがに気分爽快。

 松本幸四郎ははまり役で、カッコいいのなんのって殺陣の切れ味も抜群で、時代劇にはスター歌舞伎役者がよく似合う。しかも今回は若き頃の恋模様と鬼平誕生秘話が明かされるエピソードゼロ。その若き鬼平を演じるのは市川染五郎! そう、親子で鬼平を演じ分けるスペシャル版。美形の染五郎はまっすぐな正義感とアクションで見るものを魅了する。幸四郎のクライマックスの長い殺陣は音楽と相まって、まるで「スターウォーズ」のような高揚感を味わえる。時代劇専門チャンネルでのシリーズ化も発表され、鬼平を楽しむ時代が再び来たのだ!



Ⓒ「鬼平犯科帳 血闘」時代劇パートナーズ
原作:池波正太郎『鬼平犯科帳』(文春文庫刊)
5月10日(金)全国ロードショー



笠井信輔

フリーアナウンサー

1987年フジテレビアナウンス部入社後2019年10月よりフリーになる。
趣味の映画鑑賞は新作映画を年間130本以上スクリーンで観るほど。
舞台鑑賞は特にミュージカル、とりわけ宝塚歌劇団好き。

オフィシャル・ブログ
笠井TIMES『人生プラマイゼロがちょうどいい』

オフィシャル・インスタグラム
shinsuke.kasai