笠井アナの「僕のえいがの百三十科」#166

 きみの瞳(め)が問いかけている   十二単衣を着た悪魔  空に住む

 半分の客数で上映を行っていた映画館も、ようやく100%の座席稼働が認められました。みなさん「GO TO MOVIE!」です。私も国内最大画面のIMAXレーザースクリーンで映画を見てきました!その様子は来月号をお楽しみに。

  きみの瞳(め)が問いかけている

輝く未来を見てほしい。たとえ、そこに俺がいなくても。

 やっぱり、恋愛映画はいい!過去のトラウマから逃れられない内気なキックボクサー(横浜流星)が、目の不自由なヒロイン(吉高由里子)と出会うことにより再生の道を歩みはじめるが…。

 設定や急激な転換がドラマチックで韓流ドラマを思わせる部分もあるが、抑制のきいた演出がうまくツボにはまってしまう。また、主役2人の地に足がついた確かな芝居に感情移入してしまい、目頭を熱くしながら薄幸な2人を応援モードだ。特に、目が不自由ながらも、けなげに朗らかに生きる吉高の演技は出色。さらに、若い女性たちは、繊細なたたずまいでありながらリングの上で強靱な肉体と強さを見せる横浜のこれでもか!という魅力に〝 ギャップ萌え 〟だろう。ラスト10分は涙が止まらなかった。改めて思う。三木孝浩監督の恋愛作品にハズレなし!


2020年制作 配給:ギャガ 10月23日(金)全国ロードショー
監督:三木孝浩
キャスト:吉高由里子、横浜流星、やべきょうすけ、田山涼成、野間口徹 他

  十二単衣を着た悪魔

内館牧子の原作の映画化。現実と源氏物語の世界を華やかに彩ります。

 映画界はタイムスリップものが大好き。しかもまた源氏物語? しかしそれは杞憂に終わった。黒木瞳監督が描きたかったのはタイムスリップストーリーではなく、源氏物語で悪女として登場し、この千年に渡り悪者扱いされてきた「弘徽殿女御(こきでんのにょうご)」に〝 新たな光 〟を当てること。ツッコミどころもあるが、ここが面白かった。

 三吉彩花が演じる弘徽殿女御は、その凜とした姿、セリフで魅力たっぷり。「怖い女はバカではなれない」などいちいち言うことに説得力があり、弘徽殿女御が現代の女性たちにも通じる魅力を持った人物であったという新たなヒロイン像を提示するのだ。

 作品のテーマは「人はいつまでも同じ地位にはいられない」。大いに共感した。私自身が若い者たちの台頭に、会社を辞める決断をしたからだ。若者だけに向けた作品ではないのである。


2020年制作 配給:キノフィルムズ
監督:黒木瞳
キャスト:伊藤健太郎、三吉彩花、伊藤沙莉、田中偉登、沖門和玖 他

  空に住む

仕事、人生、そして恋愛。新たな一歩を踏み出していく女性の「私、ここから、はじめる

 最近の多部未華子の評価が高い理由が分かる一本。両親を突然亡くし、叔父夫婦が所有するセレブ御用達のタワーマンションで1人暮らしを始めた主人公(多部)が、同じマンションに住む超人気俳優(岩田剛典)と出会って、関係を深めていく。普通の女優が演じると〝 おとぎ話〟だが、彼女が演じると、リアリティーが増して、もしかしたら自分もこんな体験をするんじゃないかと思えるような雰囲気を醸し出す。

 ドラマ「私の家政夫ナギサさん」など、多部作品は、これって私のことかも…、と思わせてくれる不思議な力を発揮しているのだ。どこか自分に自信がない生き方、今の生き方がこれでいいのか迷っている。そうした部分が今の女性たちの共感を得ているのかもしれない。青山真治監督はそんな彼女の魅力を充分わかっているようで、静かな物語の語り口が心になじむ。


2020年制作 配給:アスミック・エース
監督:青山真治
キャスト:多部未華子、岸井ゆきの、美村里江、岩田剛典、鶴見辰吾 他

笠井信輔

フリーアナウンサー

1987年フジテレビアナウンス部入社後2019年10月よりフリーになる。
趣味の映画鑑賞は新作映画を年間130本以上スクリーンで観るほど。
舞台鑑賞は特にミュージカル、とりわけ宝塚歌劇団好き。

オフィシャル・ブログ
笠井TIMES『人生プラマイゼロがちょうどいい』

オフィシャル・インスタグラム
shinsuke.kasai