その不調、「胃」が原因かも?

胃こそ健康の要!胃の声に耳をかたむけよう

日本スポーツ栄養協会理事長・日本栄養士会副会長・神奈川県立保健福祉大学教授

鈴木 志保子 先生

東海大学大学院医学研究科修了。トップアスリートからジュニアまで多数のスポーツ現場で栄養サポートや指導に携わる。

胃がしっかり働いてこそ消化吸収につながります

 神奈川県立保健福祉大学教授であり、多くのアスリートをトータルにマネジメントしている鈴木志保子先生は、自らの専門である「スポーツ栄養」について、「元気になるための栄養学です」と話します。それは、私たちは身体活動が伴ってはじめて元気になれるからで、そのとき非常に重要な働きをしている「胃」について、専門の立場から伺いました。

 まず、栄養を取るため大事な食事について鈴木先生は、「いくら目の前にバランスの良い食事があっても、それがしっかり消化吸収されなければ意味がありません」と話します。このとき大切な働きをしているのが胃で、実は消化器官として知られていますが、アルコールや鉄分などの吸収も行っており、胃の不調はその働きにも影響を与えると言います。

 また、胃は食べた物を留め置きするという働きによって、そのあとに続く小腸の働きを支えていると鈴木先生は強調します。「胃で留め置きされた食べ物は、1分間に親指の頭くらいの量が十二指腸に移動します。胃では、胃酸により食べ物が酸性となっているため、少しずつ移動させて、十二指腸でアルカリ性の腸液を分泌して中性にすることで、十二指腸の粘膜を守っています」。さらに、胃酸により雑菌を殺すとともに、たんぱく質を変性して消化しやすくします。また、ダイナミックなぜんどう運動により食べ物と胃液を混ぜ合わせ、同時に油分を小さくするなどして、小腸でしっかり吸収できるよう助けているのです(下図参照)。

胃がアスリートのパフォーマンスにも影響!?

 「良好な胃と小腸の消化吸収なしに、強いアスリートは育てられません」と鈴木先生は明言します。「選手が食べた物は、どう消化吸収されたかによって、便の回数から筋肉の付き方まで変わってくるのです。いかに良いトレーニングを取り入れても、もとの身体を作る胃腸について把握していないと、優れた選手は育てられないのです」。また、そうした消化吸収の大切さはアスリートに限ったものではなく、私たちにも当てはまります。しかしそんな大切な胃を、私たちは自分の意思で動かすことができません。そして、もたれや痛み、不快感など悲鳴をあげます。「そればかりか、胃は私たちのストレスを日々受け止めてくれてもいます」。胃は、そうして私たちのさまざまなパフォーマンスを支えてくれているのです。ぜひ、日ごろから胃をいたわり、負担をかけない生活を心掛けるようにしたいものです。次ページからは、鈴木先生のアドバイスもいただきながら、胃の不調が原因で起こる身体のトラブルやその対処法についてご紹介します。

《正常な胃の働きについて》

 食べ物の消化器官として大切な役割を果たす胃ですが、働きは意外と知らないもの。まず、胃の消化ステップには3つあり、食道を通って入ってきた食べ物を蓄えるため、胃を広げる役割。次に胃液と食べ物を混ぜるためのぜんどう運動を行うこと。3つ目は粥状に消化した食べ物を十二指腸に送り出すことです。

貧血

 胃は消化器官であるばかりでなく、一部で吸収器官の働きも担っています。その一例が鉄分で、小腸でも吸収されますが、胃でも吸収されています。

 このため、胃の状態を良好に保つこと自体が貧血の予防につながる側面があり、鈴木先生は「多くの皆さんは鉄欠乏性貧血と言えば、鉄の摂取量が少ないからと思いがちですが、それ以外にもエネルギー不足が原因になっている場合、そして胃の調子が悪いことから吸収がうまくいかないことも原因になるのです」と警鐘を鳴らします。

 胃の不調と貧血は結びつきにくいものですが、単に鉄の摂取量を増やすほかに、胃の調子を整えることが鉄不足の予防と改善につながることを、しっかり覚えておきたいものです。

口内炎、肌荒れ

 読者の皆さんの中には、仕事で大切なプレゼンテーションしなければならないといったとき、口角炎や口の周りがカサカサになる肌荒れを経験した方がいると思います。「これは、食事はしているものの、胃や腸での消化吸収がうまくいかず、ビタミン不足になっていることが考えられます」(鈴木先生)

 緊張感を持ちながら食事をすること自体、胃の運動や消化液の分泌を抑制することから、消化の良い食べ物やビタミン摂取できる食材などで工夫したいものです。

ビタミンCは淡色野菜から!
・ハクサイ ・ネギ(白い部分)・ダイコン ・カブ ・ゴボウ など
ビタミンA(カロテン)は緑黄色野菜から!
・ホウレンソウ ・コマツナ ・シュンギク ・ニンジン など

免疫力低下、風邪

 栄養状態を良くすることが、風邪などの感染症予防につながることは皆さんもよくご存じでしょう。しかし、鈴木先生は、「免疫力も含め、身体の機能はすべての栄養素がそろってはじめて発揮されるのです」と解説します。

 つまり、ある栄養素が少なくなると、身体の機能が全体としてレベルが下がり、その状態で生きていることになるというのです。だからこそ、バランスの良い食事が重要になるわけですが、「身体の機能が落ちた状態でもそれを意識することなく生きていけるため、免疫力の低下にも気づかないのです」と鈴木先生は話します。

 このことを胃にスポットを当てて考えると、いくら目の前にある食事がバランス良く、自分にとって適正な量であったとしても、「食べてからその先の、自分にとって必要量の栄養素が消化吸収される状態までいかない限りは、私たちの身体は少ない栄養素に合わせて全体の機能を落としてしまうのです」というのです。このように、食べるということの前に、胃の健康を維持するということが、バランス良く栄養を取る必須の条件になるのです。

 さらに、家庭で食事をする場合なども、子供たちに宿題や試験などの精神的に緊張を伴う話をすることは消化吸収には良くなく、「せっかく作ったバランスの良い食事が、子供たちの身体のためにならなくなって免疫力も下げてしまいます」と、鈴木先生は指摘します。 胃は正直で、嫌なことや緊張があれば、食欲を落として食事の量を減らしたり、食べても胃の働きを悪くしたりします。免疫力を高めるには、感情面に配慮することも非常に重要なのです。