その不調、「胃」が原因かも?

肩こり、貧血、口内炎…胃からの危険信号、放置していませんか?

 食後のもたれ感や胸やけなど、胃の不調に悩む方は少なくありません。でも、肩こりやドライアイ、免疫力の低下など、一見、胃とは関係がないように見えて、実は胃の不調が原因になっている場合があります。今回は、日々をより健やかで元気に過ごしていただけるよう、胃と上手に向き合うさまざまなヒントをご紹介します。

監修
北里大学東洋医学総合研究所客員教授 伊藤剛先生
神奈川県立保健福祉大学教授 鈴木志保子先生

その肩こり、胃が原因かも 自律神経の緊張を緩めましょう

北里大学 東洋医学総合研究所客員教授

伊藤 剛 先生

浜松医科大学卒業。専門は内科(消化器病専門医)、漢方(漢方専門医)、鍼灸、自律神経疾患、冷え症、心身症、ストレス障害など。

肩こり、背中の痛み

 消化器の疾患に詳しい北里大学東洋医学総合研究所の伊藤剛先生は、胃の不調の中でFDの患者さんが薬で治りにくいのは、自律神経の問題が絡んでいるからだと指摘します。

 先生が診ている、胃のもたれや不快感があるFDの患者さんは、内視鏡検査で異常はなかったが背中の凝りが強く、指で押すと圧痛を訴えるそうです。「背中が凝ると、その刺激が脊髄を介して同じレベルの内臓に伝わり、胃など内臓の血流や動きを悪くしたりします。FDの方は特に背中の右側の凝りに関係が強く、指圧や鍼で治療するとすぐに症状が改善します」(伊藤先生)

 胃の不調は肩こりの原因になることもあり、その場合も自律神経的な問題が多いと伊藤先生は言います。「身体の交感神経は体中つながっており、胃のあたりに分布する神経は肩や首にもつながっています。このため胃の不調が原因でも首や肩の交感神経が緊張して凝ってしまうのです」。同様に、肩こりや背中の痛みも、凝りをほぐしてやると胃の症状も緩和されることがあるのです。

ドライアイ

 体中の交感神経がつながっていることから、場合によっては胃の不調が背中や肩だけでなく、頭や目につながっている交感神経に影響を及ぼすこともあると伊藤先生は言います。

 そのため、目の交感神経の緊張などが原因となり、ドライアイや眼精疲労など、目の不調が起きることがあると言います。「シェーグレン症候群などのように、涙線などの外分泌腺に問題がある場合は別として、原因が交感神経の緊張による場合は、後頭部の凝りをほぐすだけでドライアイの症状を緩和させることができるのです」(伊藤先生)

凝りをほぐすソフトボールを使ったストレッチ
 伊藤先生は、胃のもたれや不快感のある方に、ソフトボールを使って背中の凝りを取ることをすすめています。これは自宅でできるもので、「背中の凝っている方は、椅子に座り背もたれのところにボールを置いて、体を押し付けるように寄りかかって凝りをほぐしていきます」。場所は、左右の肩甲骨の間から腰まで背骨を支えている脊柱起立筋や菱形筋という筋肉があるところで、ボールを押し付けて痛いと感じるところが凝っている箇所です。
 また、「あおむけに寝て、背中の凝っているところをボールの上に乗せ、体を押し付ける方法も効果的です。このとき、ゴリゴリしないで、体重をかけるだけにしてください。交感神経が緩んですぐに胃が動いて楽になります」。胃のもたれや不快感のある方は、ぜひ実践してみてはいかがでしょうか!

口臭、胃酸過多

 昔から、「胃が調子悪いと口臭がする」ということがよく言われてきました。口臭については歯科の分野での研究が多く、舌の苔を取る対処法なども言われていますが、「最も注意すべきは胃酸です。胃酸が多く出る方は、胃に炎症を起こしていることがあり、胃に入った食べ物が発酵しているような臭いを発することがあるのです」。これは、ニンニクを使った料理を食べたときに呼気から臭いがするように、口臭の原因が口内だけでなく胃にあることを示しています。さらに、伊藤先生によれば、診察や内視鏡検査の際患者さんが口を開けたりしたときに「酸臭」のする方がいて、そうした方は、胃に炎症のある場合が多いとのこと。よく話を聞くと、いつも胃の調子があまり良くないという方が多いそうです。

 また、胃液の酸性の度合いには季節で違いがあり、胃液pH(ペーハー=水素イオン指数)の変動を一年で見ると、夏が一番pHが高い、つまり胃液の酸度が低くなります。そして、秋になり気温が下がり始めて朝晩の寒暖差が大きくなる秋頃には、胃酸がたくさん出るようになって酸度が上がり、pHが下がる。そのため、胃酸過多の傾向がある方は、季節変動で胃酸分泌が多くなると、胃がしくしくと痛んだりする症状が出やすくなるので注意が必要です。胃酸が出過ぎる原因としては、寒冷刺激で胃酸分泌を刺激するホルモンが多くなったり、副交感神経と交感神経のバランスが崩れることが考えられ、自律神経を整えるため運動などで体調を整えることも大事だと伊藤先生は言います。 食べ物にも配慮が大切で、「動物性の肉を食べることが多い方は、消化のために胃酸が多く出るようになるのですが、空腹時にも胃酸が過剰に出るようになって、胃を傷めることもある」とのこと。胃酸分泌の面でもバランスの良い食事が重要になっています。

睡眠障害

 胃の不調などで背中全体に凝りがある場合、胸郭が広がりにくくなるため肺を広げ酸素を取り込む働きが悪くなり、呼吸がしにくくなります。そうなると、横になってもリラックスできないことから睡眠にも影響を与えます。特に高齢の方にとっては、眠れないことが精神的な不安につながることがあります。「こうして、リラックスできずに交感神経が過度に緊張すると、寒い季節などには体温調節がうまくできずに、身体が冷えやすくなってしまうこともあります」(伊藤先生)

 また、睡眠と食事の関連では、夜に食べ過ぎると、高齢の方の場合は睡眠中に消化しきれないこともあります。そうした状態で朝ごはんを食べると、胃がもたれるという悪循環につながります。「胃に負担がかかると、その不快感により脳が刺激され夜になっても眠るためのスイッチが入らなくなってしまいます。対策としては、入浴や下肢の軽いストレッチをして脳の血圧を下げ、刺激を減らす工夫をしましょう」(伊藤先生)

 このように、胃の不調は、身体の他の部分の不調にもつながることがあるため注意が必要です。まずは胃に負担をかけている習慣や行動がないか、チェックしてみましょう。