映画『水上のフライト』 小澤征悦さんインタビュー

©2020 映画「水上のフライト」製作委員会

11月6日に公開された「水上のフライト」は、不慮の事故に合い、将来を有望されていた走り高跳び選手としての夢を絶たれた女性が、家族の愛情や、支えてくれる新しい仲間たち、カヌーとの出会いによって新しい夢を見つけ、再生していくヒューマンストーリー。

主人公・遥を演じるのは、若い女性から絶大な人気を誇る『雪の華』の中条あやみ、遥を裏方で支える仲間・颯太役に『居眠り磐音』などの人気俳優・杉野遥亮、心配しながらも温かいまなざしで包み込む母・郁子役に『アマルフィ 女神の報酬』の大塚寧々、父親代わりに厳しく熱く導いていくコーチの宮本役に『引っ越し大名!』の小澤征悦ら旬な俳優陣が集結。さらに、『キセキ ―あの日のソビト―』の兼重淳を監督に迎え、豪華なタッグが実現しました。

脚本は、映画『超高速!参勤交代』シリーズ等数多くの大ヒット作の脚本を手掛ける土橋章宏が、企画・脚本をTSUTAYA CREATORS’ PROGRAMに応募し、審査員特別賞を受賞して映画化となったオリジナルストーリー。

今回は、中条あやみさんが演じる主人公・遥を父親のように厳しく熱く導いていく「コーチ・宮本」を演じた小澤征悦さんに、今作について色々お聞きしました。

宮本コーチがとても素敵なキャラクターでした。兼重監督からは「全ての登場人物の父親的な役回りになって欲しい」、「この役は小澤さんしか浮かばなかった」とコメントされていますが、その辺はいかがですか?

 本当ですか?多分冗談ですよ(笑)。でもそう言ってもらえるのはとても嬉しいです。

宮本コーチはこの物語の中で、どんな役割、存在になれたと思われますか?

 この映画の大きな題材は、体が不自由になってしまった人の再生の物語です。遥に対して大きな愛情を根底に置いて、明るく、ちゃんと支える、ということを意識しました。兼重監督とも話をして、重くならないように、湿っぽくならないように、けれどもちゃんと遥をサポートしていこうという気持ちを常に根底に持って演じていました。

先に試写を見た人の感想では「思ったより暗くなかった」「明るい気持ちになった」という感想が多く聞かれました。私自身もあらすじを読んで構えてた所がありましたが、見終わった後は温かい気持ちになりました。

 そう言っていただけると嬉しいです。川でカヌーの練習中に、パラカヌーの選手の方と一緒になりまして。その時の選手の印象が、とても明るく、強く、ポジティブなオーラを感じました。映画もそういった力強さみたいなものがあったらいいと感じてみんなやったんじゃないかな。監督も勿論そういった撮影の仕方をしてますしね。

兼重監督が、「小澤さんと一緒に台本を直した」と仰ってましたが、どの辺でしょうか。

 兼重監督も意見を拾ってくださる方なので、シーンごとに色んな意見を出させていただいて。「それいいね!やりましょう」と採用されるともあれば、もちろん「今回はやめようか」ということもありましたね。
 自分が演じた「宮本」という男も、「昭和の男」っぽい感じにしようと撮影の途中で話し合って決まりまして。主人公の遥と子どもたちがキャンプに行ったシーンで「バッチグーだよ!」というセリフがあるんですが、そこは僕が勝手にやったんです。

アドリブだったんですね。

 まぁ、監督にそこで何かやってくれって言われていたのでやったんですけど(笑)。そこは「いいね、それ!昭和の昔っぽい、明るいのに周りが理解してない空気感がいい!」って採用されました。もちろん、監督の考えがベースです。

今回、オリジナル脚本ということで、小澤さんが「水上のフライト」の出演を決めた理由と、脚本を読んだ時の印象を教えてください。

 TSUTAYAさんで選考に受かった台本(TSUTAYA CREATORS’ PROGRAMの審査員特別賞)ということで、やはり本に勢いがあっていいなって感じましたね。共演者の中条さんは、今回がはじめましてだったんですが、会う前は、すごい繊細な方だろうなってイメージを持ってました。彼女が真ん中で、大塚寧々さんもいらっしゃって、これはいいものになるんじゃないかなって予感がしたんです。

宮本は熱いコーチでしたが、小澤さんが教わる側になったとして、理想のコーチ像ってありますか?

 自分では褒められて伸びるタイプだと思ってます(笑)。
自分は、中高大の学生時代はバスケットボールをやっていて、当時は今では信じられないと思うんですが、練習中に水は飲むなとか、うさぎ跳びをやったり、とか色々あったんですね。でもそういったコーチの元でやってきて、今この俳優業をやっていて役立ってる部分があるのも確かなんです。この業界ってちゃんとした縦割社会で、先輩と後輩の関係もちゃんとしていて。だからそういった学生生活を過ごしてきた経験は今の糧になっています。ただ、本当は褒められて伸びるタイプです(笑)。

褒めて欲しいのに褒めてもらえない時、かわりに自分で鼓舞するとか、自分が伸びる為の何かコツがあったりしますか?例えば、コーチが褒めてくれないなら他の人に褒めてもらうなど。

 褒めて欲しい人と話をしてて、最後に「よかったですよね?」みたいなに、こっちから確認するみたいな流れを作り、「まぁ、よかったんじゃない?」「そうですよねー!」と半ば無理やり言葉を引き出すというアグレッシブさはあるかもしれない(笑)。

今もですか?

 今もです(笑)昨日もけっこうきつい現場で、マネージャーに褒めさせようとして一生懸命引き出そうとしても全然褒めないの。だからまだ喧嘩の最中です(笑)

作品に入る前の中条さんの印象で、繊細そうだとお聞きしましたが、でもご本人お会いするとサバサバさっぱりで。

ね。関西出身でね。

中条さん、今回は色々な事にチャレンジされて大変な役だと思いますが、周りから見てどんな女優さんだと思われましたか?

 今回、彼女は下半身が動かない状態の芝居が多かったんで、それもすごい女優として挑戦的なことだったと思うし、もう一つ、自分たちが劇中で乗っているカヌーと、彼女が最後に競技で乗ってるカヌーって、操作性が全然違うんですよ。普通のカヌーの方は撮影の2~3週間前から川でみんなで練習して子どもたちも乗れるようになって。
 自分も競技用のカヌーにプールで乗せてもらったんですけど、カヌーの両端を持ってもらって、「離しますよー」と、離された瞬間に沈没しちゃって。そのくらいバランスが難しい。中条さんは本当に大変だったと思う。でも難なく、作品の中でこなして成立させているでしょ?あんなに綺麗で可愛くてみんなの憧れの的かもしれないけど、本人は筋が通ってて強い部分を持っていて根性がとてもある。
 中条さんの他の作品も見ましたけど、この水上のフライトという作品で、女優として一皮むけたというか、泣きの芝居もそうですし、こんなこともできるんだって芝居の部分ですごくいいなと思ったんです。将来、いい女優さんになるな、楽しみになるなって感じました。綺麗だけど、それを使うというか、それに留まらないでちゃんと芝居で表現していくことを渇望しているが見えたので嬉しかったですね。

宮本コーチという存在は、母親にも弱音も吐けないで抑え込んでいた遥にとって感情をぶつけられる相手だと思いました。宮本からも大きな愛情を感じました。その距離感が自然と画面からも感じられましたが、現場でのコミュニケーションとか積極的にとるようにされてたんですか。

 それはもちろんやってましたね。今回、この現場でいいなと思ったのが、小学生の子どもたちの存在で。僕は現場で馬鹿なことを率先してやるというか。それで現場がまとまっていけばいいなと思って。それをやった時のリアクションが子どもがいることによって、素直な本当の意味の笑いになって、そこに中条さんが加わったり、杉野君の元々の独特なテンポの間で笑いを提供したりして。子どもがいたのがすごいよかったですね。

じゃあ、現場はわいわい明るい感じでしたか?

 すごい明るかったです。監督自体も陽のオーラを持っている明るい方なので、相乗効果があって、その辺は映像の中で見えるんじゃないかな。
子どもとカヌーに乗ってる時なんて、聞こえないからいつ撮影されているかわからない時があるんですよ。でもコーチと生徒という関係性の中でやってるから成立してたり、自然だったりでその要素がいい方向で働いている映画だと思いますね。

映画の中でも仲がとてもいい空気が見えました。

 撮影に入る前にカヌーの練習をやったのもよかったんです。子どもたちが自然に僕のことをコーチとして見はじめる。その空気感ができた所に中条さんが入ってきて。女の子なんて中条さんに本当に懐いていて撮影が終わるときには泣いちゃってました。

コーチとして自然と受け入れてくれる状況ができていたということですが、カヌーも教えられるくらい、みんなより上手だったんでしょうか。

 僕もはじめてだったんですよ。

小澤さんはなんでもできるイメージがあるので、さらっと乗れちゃうのかなって

 カヌーをこんなにちゃんと乗ったのははじめてでした。

小澤さんのお気に入りのシーンありますか?

 結果的に自分が言ったセリフなんですが、カヌーの練習中に遥の背中に向かって「カヌー楽しいだろ、水面を渡る風になれ、遥!」っていうシーンがすごい綺麗で詩的で好きです。
あとは、子どもたちが遥のカヌーに色々書いているシーンも優しさを感じて好きですね。監督の優しさが出てるというか、ドキュメンタリーっぽく撮ってるし、そういう自然なシーンがこの作品では多くて注目してもらえると嬉しいです。

遥が試合の前にするポーズがありますが、小澤さん自身の日常的なルーティンみたいなものはありますか。

 あるかなぁ…毎日リンゴジュースを飲んでますね。色々試したんですが、酸化防腐剤とかが入ってない、ストレートなおいしいのを見つけたので、たくさん買っておいて飲んでますね。

最後に映画の見どころを教えてください。

 不慮の事故で下半身不随になってしまったヒロインがいろんな人のサポートと持ち前の元気さで新たな道を進んで再生してい物語です。家族愛だったり、仲間の愛、先生と生徒の友情だったりとか、そういう普遍的な人間の温かいポジティブの感情がいっぱい詰まった映画なので、人間が持っているお互いを思いやれるやさしさを感じてもらえたらなと思います。

小澤征悦(俳優)


1974年生まれ。アメリカ合衆国カリフォルニア州出身。
ドラマ/「いだてん~東京オリムピック噺~」(2019)、『頭取 野崎修平』(2020)など。映画/『64-ロクヨン-前編/後編』(2016)、『引っ越し大名!』(2019)、『一度死んでみた』(2020)などに出演。
2021年は、主人公の日本語吹き替えを務めた『キングスマン:ファースト・エージェント』が控えている。