笠井アナの「僕のえいがの百三十科」#185

 ハケンアニメ!   20歳のソウル  太陽とボレロ

 

劇中劇に出てくる芸術をどれほど本気で出現させるか? それは作品全体の評価につながる。今回取り上げる3作品。スタッフ・俳優が「アニメ」「吹奏楽」「オーケストラ」と本気で向き合った努力の結実をぜひ劇場で見てほしい。

  ハケンアニメ!

アニメ業界で闘う者たちを描いた、熱血エンターテインメント!

 大満足! 非常に面白い! 今年見たエンタメ作品の中で最高の仕上がりと言っていい。新人アニメ監督(吉岡里帆)が、憧れの超わがまま人気監督(中村倫也)にアニメ視聴率戦争を挑むという、テレビアニメの制作の舞台裏を描いたお仕事ムービーだ。ほんとによくできていて、アニメ制作の内幕を見ているだけで面白い。2人についている鬼プロデューサーに柄本佑、神プロデューサーに尾野真千子。対照的な2人のキャラが際立っていて観客を巻き込んでいく。

 「作りたいもの」と「売れるもの」は違うのだ! という、クリエーターたちが抱える永遠の課題を見事に映像化し、その下で絵を描くアニメーターたちの情熱だけで身を粉にして働く姿に思わず涙してしまう。しかも、2人が作るアニメ番組が超本格的で、この2本を独立したアニメとして見せてほしい! もう、とにかく必見。


Ⓒ 2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
5月20日(金) 全国ロードショー


原作:辻村深月「ハケンアニメ!」(マガジンハウス刊)
監督:吉野耕平
脚本:政池洋佑
キャスト:吉岡里帆 中村倫也 工藤阿須加 柄本 佑 尾野真千子

  20歳のソウル

俺の音楽は生き続ける
音楽が育んだ感動の青春物語

 これが実話の重みというもの。舞台は知る人ぞ知る船橋市立船橋高校吹奏楽部。主人公は伝説的部員ともいえる浅野大義(たいぎ)さん(神尾楓珠)だ。
 

 がんを患い20歳の若さでこの世を去った彼が吹奏楽部で仲間たちと熱く生き抜いた姿と顧問の高橋健一先生(佐藤浩市)との強い絆を描いた感動の物語である。闘病ばかりではないのがいい。前半の青春映画としての輝きが素晴らしかった。パワフルで情熱にあふれ、かつ繊細な神尾楓珠の芝居が大変魅力的なのだ。病と向き合い、前を向き生きていくとはどういうことなのか。短いながらも濃密な人生を送ることのかけがえのなさが心を打つ。さらに恩師、高橋先生が極めて重要な存在であり、この役がなぜ佐藤浩市なのか、先日、高橋先生ご本人にお会いして納得させられた。 

 これは真実の物語なのだ。若い人にぜひ見てもらいたい。


Ⓒ2022「20 歳のソウル」製作委員会
5月27日(金) 全国ロードショー

原作:中井由梨子「20 歳のソウル 奇跡の告別式、一日だけのブラスバンド」(小学館 刊) 「20 歳のソウル」(幻冬舎文庫)
企画・監督:秋山 純
脚本:中井由梨子


キャスト:
神尾楓珠
尾野真千子 福本莉子 佐野晶哉(A ぇ! group/関西ジャニーズ Jr.)
前田航基 若林時英 佐藤美咲 宮部のぞみ 松大航也
塙宣之(ナイツ) 菅原永二 池田朱那 石崎なつみ
平泉成 石黒賢(友情出演)/高橋克典
佐藤浩市

  太陽とボレロ

圧巻のコンサートシーン、希望を信じる人間讃歌。
「音楽」は人々を幸せにする最高のマジック!

 クライマックスでこんなにも拍手をしたくなった映画は本当に久しぶり。その理由は、この作品が本物で彩られているから。水谷豊監督は3作目にして「異業種監督」などと言わせない作品を作り上げた。
 地方の交響楽団の指揮者(水谷)が倒れたことで、楽団が存続の危機に立たされるが、主宰者(檀れい)のプランは度肝を抜くものであった。果たしてコンサートの幕は無事に上がるのか? ユーモアにあふれた作風を楽しんでいると、クライマックスに感動が押し寄せる。演奏家役の町田啓太(トランペット)、森マリア(ヴァイオリン)、田口浩正(オーボエ)、六平直政(コントラバス)らは、 1年以上に及ぶ特訓で楽器を習得し、本番は吹き替えなしで観客の前で演奏するというぶっつけ本番の収録を水谷監督が強行! それが大変な感動につながった。もはやこれはノンフィクションなのだ。


Ⓒ2022「太陽とボレロ」製作委員会
6月3日(金) 全国公開

監督脚本:水谷豊
キャスト:
檀 れい
石丸幹二 森 マリア 町田啓太
田口浩正 永岡 佑 梅舟惟永 田中要次 木越 明 高瀬哲朗 藤吉久美子
小市慢太郎 カンニング竹山 HideboH 渋谷謙人 松金よね子
六平直政 山中崇史/檀 ふみ/河相我聞 原田龍二
水谷 豊

笠井信輔

フリーアナウンサー

1987年フジテレビアナウンス部入社後2019年10月よりフリーになる。
趣味の映画鑑賞は新作映画を年間130本以上スクリーンで観るほど。
舞台鑑賞は特にミュージカル、とりわけ宝塚歌劇団好き。

オフィシャル・ブログ
笠井TIMES『人生プラマイゼロがちょうどいい』

オフィシャル・インスタグラム
shinsuke.kasai