笠井アナの「僕のえいがの百三十科」#188

 百花   異動辞令は音楽隊!  この子は邪悪

 

三木孝浩監督がノッている。7月29日に「今夜、世界からこの恋が消えても」が公開されたと思ったら、8月11日に「TANG タング」、そして8月26日には「アキラとあきら」。一ヵ月の間に3本もメジャー作品が公開され、そのどれもが面白いのだ。

  百花

そして、愛が残る。母が記憶を失うたびに、僕は思い出を取り戻していく。

 丁寧で繊細な物語に涙した。認知症になってゆく母を見つめる息子の微妙な感情の変化を菅田将暉が少ないセリフで細やかに演じている。彼の演技の幅の広さには本当に驚かされる。一方で記憶を失っていく原田美枝子の切ないほどの佇まい。この母親が完璧でない、いやむしろ人として欠落している部分があるという設定が物語を深めてゆく。

 驚くべきは、この作品の監督が「電車男」「悪人」「おおかみこどもの雨と雪」「天気の子」など手掛けた日本有数の超ヒット映画プロデューサーの川村元気氏だということ。ワンシーンワンカットの長回しが緊張感を高め、母である原田の変化から目が離せない。息子が決して忘れない母の罪を忘れてゆく母。一方で子供が忘れていたことを認知症でも忘れない母。これは、米国アカデミー賞受賞の認知症映画「ファーザー」に負けない「マザー」である。


Ⓒ2022「百花」製作委員会
9月9日(金) 全国東宝系にて公開

監督:川村元気
脚本:平瀬謙太朗 川村元気

キャスト:
菅田将暉 原田美枝子 長澤まさみ/
北村有起哉 岡山天音 河合優実 長塚圭史
板谷由夏 神野三鈴/永瀬正敏

  異動辞令は音楽隊!

犯罪捜査一筋の鬼刑事が警察署内の〈はぐれ者集団〉にまさかの人事異動?

 なんだか、とっても幸せな気分になれる作品。昭和時代の遺物か!といえる前時代的なパワハラ熱血刑事(阿部寛ピッタリ・笑)が、警察音楽隊に異動。はぐれ者集団のような部署で、隊員とぶつかりながら「やさしい心」を取り戻せるか?というハートウオーミングな異色警察ドラマ。草彅剛主演の「ミッドナイトスワン」で映画賞を総なめにした注目の内田英治監督作品だ。 

  阿部の刑事としての傍若無人ぶりを前半かなり丁寧に描いていることころが好感。次第に自分の居場所とあるべき姿を認識しててゆく阿部の変化が、いつもながらうまく、安心して見ていられた。事件捜査に関しては少々ご都合主義的な部分もあるが本格警察ミステリーではないので、そこはご愛敬。警察音楽隊の実態も面白く、果たして警察に音楽隊は必要なのか?  その答えは温かな気持ちとともに劇場で。 


Ⓒ2022「異動辞令は音楽隊!」製作委員会
8月26日(金) 全国ロードショー

原案・脚本・監督:内田英治

キャスト:
阿部寛
清野菜名 磯村勇斗
高杉真宙 板橋駿谷 モトーラ世理奈 見上 愛
岡部たかし 渋川清彦 酒向 芳 六平直政 光石 研 /倍賞美津子

  この子は邪悪

「この人、お母さんじゃない—。」世にも奇妙な謎解きサスペンス!

 冒頭5分で作品の異様な世界観につかまれてしまった。交通事故で5年間植物状態だった母(桜井ユキ)を父(玉木宏)が連れて帰ってきた、娘(南沙良)は、どうしてもこの母親が本当の母に思えない。すると、次第に、恐ろしい現実が明らかになるという心理ミステリー。
 この作品は、またもツタヤクリエイターズプログラムの受賞作品だ。近年、オリジナル作品の中で「これは!」というひねった作品はこの賞の受賞作であることが多い。今回なんといっても、一家の幼い妹が白い仮面をしたまま生活している(犬神家の助清か!)のがあまりにも異様でムードを盛り上げる。
 精神科医の玉木宏の深すぎる愛をどう見るか?
 冒頭の異常なシーンの数々がラストに明かされる戦慄。そんなことありえない!とつけ放すか? これはない話ではないと思えば、優れたホラーだ。


Ⓒ 2022「この子は邪悪」製作委員会
9月1日(木)新宿バルト9他にて全国ロードショー

監督・脚本:片岡翔

キャスト:
南沙良
大西流星(なにわ男子) 桜井ユキ
渡辺さくら 桜木梨奈 稲川実代子 二ノ宮隆太郎
玉木宏


笠井信輔

フリーアナウンサー

1987年フジテレビアナウンス部入社後2019年10月よりフリーになる。
趣味の映画鑑賞は新作映画を年間130本以上スクリーンで観るほど。
舞台鑑賞は特にミュージカル、とりわけ宝塚歌劇団好き。

オフィシャル・ブログ
笠井TIMES『人生プラマイゼロがちょうどいい』

オフィシャル・インスタグラム
shinsuke.kasai