笠井信輔の「映画がいっぱい」

 笑いのカイブツ   PERFECT DAYS  弟は僕のヒーロ―

 

 2023年の笠井的BEST5の発表です!

❶エゴイスト ❷ゴジラ-1.0 ❸ロストケア ❹怪物 ❺月
今年は邦画が力作ぞろい。どれが1位でもおかしくない。
ゲイの世界を極力誠実に描こうとした感動作を1位に据えました。

  笑いのカイブツ

伝説のハガキ職人「ツチヤタカユキ」。
笑いに取り憑かれた男の、魂震わす衝撃の実話。

 「衝撃の実話」というキャッチコピーがあるが、この作品は「実話と知って衝撃」。
 深夜のラジオ番組に毎回爆笑ハガキを送って来る伝説のハガキ職人「ツチヤタカユキ」。お笑い作家を目指すその才能はピカ一、しかし、彼は人とコミュニケーションが全く取れない男だった。 

 その男が、番組の見習い作家に登用されてからの強烈な出来事がつぶさに描かれる。とにかくツチヤ役の岡山天音の憑依ともいえる、常に死の影をまとった芝居に圧倒された。あまりの協調性のなさに、ハラハライライラ。いい加減にしろ!と画面のこちらから怒鳴りたくなる。そんな「ツチヤタカユキ」を一人の芸人(仲野大賀)が支え抜く。

 あまりにも嘘くさくて興ざめしそうになるが、こここそが実話なのだ。まさか、あの有名人がこの物語のもう一人の主人公だったとは…感動。小説より2倍も3倍も奇なる事実を堪能してほしい。


Ⓒ2023「笑いのカイブツ」製作委員会
 1月5日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー

  PERFECT DAYS

同じように繰り返される一日。
けれどそれは繰り返しではなく、すべてが新しいのだ。

  世界的監督のヴィム・ヴェンダースが、日本を舞台に役所広司で撮る。期待の一方で、詩的になりすぎて難解だったら?という不安も少し。それは杞憂だった。確かに東京の公衆トイレ清掃人の平山(役所)はほとんどしゃべらない。カメラはその代わり映えしない日常を淡々と追う。しかし、これが実にいい。 

 一人ボロアパートでの厳しい生活なのに、悲壮感はなく、どこか豊かな時間を過ごしいるように見える役所。彼が下を向くのはトイレ掃除の時だけだ。朝起きれば空を見上げ、車の運転中も、木々を愛でるように周囲を見渡し、常に都会の息遣いを自ら感じようとしているかのよう。その、どこか満ち足りたような佇まいを役所広司が見事に体現している。
 そしてしみじみ思う。豊かな人生とは何か? 自分はそんな風に日々を過ごせているだろうかと。今日もスマホを睨みつけながら…。


Ⓒ2023 MASTER MIND Ltd.
12月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

  弟は僕のヒーロ―

ダウン症の弟と兄が作った5分のYouTube動画から生まれた大ベストセラーの映画化!

 観てよかった。そして一人でも多くに観てほしい作品。
 こうした作品は、ダウン症の主人公の頑張りと、その周囲の愛を描く作品が多いが、これはダウン症の弟を持つ「兄の物語」。イケメンの主人公は、高校に入学すると弟の存在が恥ずかしくなり、新しい友だちに「弟はいない」と嘘をついてしまう。そこから始まるウソの連鎖。
 これが思わぬ事態を巻き起こしてしまう。こうした兄弟側の葛藤、苦悩、現実逃避を中心に据えているところがミソ。出生前診断によってダウン症の子供なら生まないという親は少なからずいて、兄の行為を簡単に責められないのが現実なのだ。しかし、映画は深刻にならない、それは本当のダウン症で弟役を演じているロレンツォ・シスト君の屈託のない姿と、純朴な行動に観客が心動かされるからに他ならない。答えはおのずと見えてくるのである。


Ⓒ2019 PACO CINEMATOGRAFICA S.R.L. NEO ART PRODUCCIONES S.L.
1月12日(金)シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテほか全国順次公開



笠井信輔

フリーアナウンサー

1987年フジテレビアナウンス部入社後2019年10月よりフリーになる。
趣味の映画鑑賞は新作映画を年間130本以上スクリーンで観るほど。
舞台鑑賞は特にミュージカル、とりわけ宝塚歌劇団好き。

オフィシャル・ブログ
笠井TIMES『人生プラマイゼロがちょうどいい』

オフィシャル・インスタグラム
shinsuke.kasai