笠井アナの「僕のえいがの百三十科」#159

 幼い依頼人   チア・アップ!  一度死んでみた

 今月は「パラサイト」で注目を集める韓国映画を取り上げます。さらに、元気の出るおばあちゃん映画と死亡コメディーの三本立て。病室で一生懸命書きましたよ。

  幼い依頼人

多発する児童虐待問題。信じ難い全貌を描き出す実録サスペンス。

 鑑賞後うなってしまった。実在の事件をこんな作品に仕上げるのか! こういう作品を見ると、なぜ「パラサイト」がウケるのかもわかる。今の韓国映画の勢い、底力を感じるのだ。

 韓国で起きた衝撃の幼児虐待死事件。10歳の姉が「私が弟を殺した」と自白したため大騒ぎとなった。物語は、弁護士崩れで、仕方なく児童相談所で働く若者だ。法律の知識を駆使して事件の〝 容疑者(依頼人)である姉 〟を救うべく立ち上がる。しかし、彼にはそうしなければならない理由があった。なぜ、事件は起きたのか? なぜ幼い姉は弟を殺めたのか?

 地味に展開する前半。しかし、ここで丁寧に人間模様を描くことによって、中盤からはずっと涙しながら見ている自分がいた。怒りと同情。韓国映画は観客の喜怒哀楽を引き出すのが本当にうまい。


2019年制作 配給:クロックワークス
監督:チャン・ギュソン
キャスト:イ・ドンフィ、ユソン、チェ・ミョンビン、イ・ジュウォン 他

  チア・アップ!

平均年齢72才のチアリーディング・チームが起こした最高のキセキとは?

 とてもよかった。おばあちゃんたちがチアリーダーに挑戦するというハートウオーミングな物語。男性シンクロナイズドスイミングの「ウォーターボーイズ」や男性ストリップショーの「フル・モンティ」等と同じ〝 笑われても頑張るパフォーマンス映画 〟だ。

 ダイアン・キートン演じる主人公が昔憧れていたチアリーディング・チームを作るのだが、集まった婆ちゃんたちは強烈な個性の持ち主ばかり。前半はとにかく笑えた。ところがこのジャンルの映画は途中どこかでマジモードのスイッチが入る。ありがちな展開と思うかもしれないが、そこがいい。笑って泣いてすっきりして「あー面白かった」。エンターテインメントはこうでなくちゃ。声を出して言いたいのは74歳のダイアン・キートンがチャーミングなこと、かっこいいこと、素敵なこと。あんなふうに年をとれたらなぁ。


2019年制作 配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム
監督:ザラ・ヘイズ
キャスト:ダイアン・キートン、ジャッキー・ウィーバー、パム・グリア 他

  一度死んでみた

大嫌いな父が「二日間だけ死んじゃう薬」を飲んで大騒動!生き返らせることができるのか?

 入院中の私にとって、かなり抵抗あるタイトル(笑)。しかし、某携帯電話会社の桃太郎や浦島太郎が出てくる「三太郎」シリーズのCMのディレクター、浜崎慎治氏の映画初監督作品と聞けば見ないわけにはいかない。

 ヒロインはパンク娘(広瀬すず、振り切れ芝居)。日ごろ嫌っている製薬会社社長の父(堤真一)が「二日間だけ死んじゃう薬」を飲んで仮死状態に。そこから巻き起こる騒動記だが、さすが人気CMディレクター。普段は15秒、30秒で勝負しているので冒頭から熱量が高く、オジサンはついていくのが精いっぱい(笑)。しかし、中盤から堤真一とあの世への案内人役であるリリー・フランキーの掛け合い楽しく、終盤の火葬場へのタイムリミットサスペンスも効果的。結末はご愛敬だが、意外にも温かな気持ちになれたのが良かった。


2020年制作 配給:松竹
監督:浜崎慎治
キャスト:広瀬すず、吉沢亮、堤真一、リリー・フランキー、小澤征悦 他

笠井信輔

フリーアナウンサー

1987年フジテレビアナウンス部入社後2019年10月よりフリーになる。
趣味の映画鑑賞は新作映画を年間130本以上スクリーンで観るほど。
舞台鑑賞は特にミュージカル、とりわけ宝塚歌劇団好き。

オフィシャル・ブログ
笠井TIMES『人生プラマイゼロがちょうどいい』

オフィシャル・インスタグラム
shinsuke.kasai