笠井アナの「僕のえいがの百三十科」#171

ノマドランド   ミナリ  騙し絵の牙

 

例年ですともう米国アカデミー賞の受賞作品が決まっている時期なんですが、コロナの影響で今年は4月26日(日本時間)に延期になりました。
早速、アカデミー賞最有力作「ノマドランド」などご紹介しましょう。

  ノマドランド

〈現代のノマド=遊牧民〉として、誇りを持った彼女の自由な旅は続いていく──。

フランシス・マクドーマンド主演と聞けば、いい作品だと思ってしまう。演劇の舞台に立った時の大竹しのぶのように、とにかく毎回見事な芝居をみせるのだ。
 今回は工場の閉鎖にともなって家を失ってしまった女性を、耐えながらもカラッと、しかし、悲しみをたたえながら静かに演じた。働きながら亡き夫との思い出を詰め込んだキャンピングカーの中で生活するのだ。ホームレスではない、ハウスレス。親戚から一緒に住もうと誘われても笑顔で断るが、生活は苦しい。
 なぜ彼女は定住しようとしないのか? その理由が明かされた時、東日本大震災の福島のことを知っている日本人ならばより深い共感を得られるはずだ。リーマンショック後、多くのハウスレスな人々が生まれた現実とさまざまな人間模様が美しい大自然の中で描かれる本作。ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞。現在、もっともアカデミー賞に近い作品だ。


(C)2020 20th Century Studios. All rights reserved.
3月26日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

監督:クロエ・ジャオ
キャスト:フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ ほか

  ミナリ

理不尽かつ不条理な運命に倒れても、人生は続き、明日は必ず来るのだ。

 サンダンス映画祭でのグランプリと観客賞のW受賞はじめ世界各地で50もの映画賞を獲得している注目作。チラシにもアカデミー賞有力の文字が躍る。
 韓国人一家がアメリカで大農場経営を夢見て、土地を耕すところから始める1980年代の移民物語だ。韓国映画でないためかドラマチックな激烈な開拓使とはならず、困難にしっかりと向き合う家族の姿に素直に感情移入できる。夢見る夫、現実に苦しむ妻、しっかり者の娘、心臓病の幼い息子(この子が非常にいい!)と家族のキャラクターを豊かに描いているところが魅力的だ。さらに、お騒がせなおばあちゃんが韓国からやってくるので目が離せなくなる。子供たちに成功する姿を見せたいと奮闘する夫と、家族に向き合わずに仕事をして何が幸せなのかと問いかける妻の対立は、今の時代に通じ思わず共感。
 そして、気づくのだ。おばあちゃんの存在の尊さに。


(C)2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.
3月19日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

脚本&監督:リー・アイザック・チョン
キャスト:スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、アラン・キム、
     ネイル・ケイト・チョー、ユン・ヨジョン、ウィル・パットン ほか

  騙し絵の牙

全員クセモノ!崖っぷち出版社で生き残りをかけた逆転連発エンターテインメント。

いやはや面白い面白い。大泉洋を主人公にあて書きした原作を、大泉洋で映画化するという、珍しいプロジェクトが実現した。
 廃刊の危機に立たされた雑誌編集長(大泉)が、困難が立ちはだかる中、大胆な奇策に打って大逆転を図ろうと奮闘する姿を描く。「罪の声」の原作者としても評判の高い塩田武士氏はさすが! おバカな役(新解釈・三國志)からシリアスな役(ノーサイド・ゲーム)まで演じることができる大泉洋の魅力をよく知っている。
 大手出版会社で起こる「出世争い」「裏切り」「すりより」「暗躍」…この面白さ、どこかで、と思っていたら、「出版業界の半沢直樹」なのだ。そして最後にやはり10倍返しの一撃が! しかし、しかし、半沢と違って思いもよらない大大逆転の1万倍返し(笑)。この作品が最後まで描いていた絵に完全に騙された。ほんと痛快。

(C)2021「騙し絵の牙」製作委員会
3月26日(金)全国公開

監督:吉田大八   
脚本:楠野一郎 吉田大八  
原作:塩田武士「騙し絵の牙」(角川文庫/KADOKAWA刊)
キャスト:大泉洋 松岡茉優
     宮沢氷魚 池田エライザ / 斎藤工 中村倫也 
     佐野史郎 リリー・フランキー 塚本晋也 / 國村隼 
     木村佳乃 小林聡美 佐藤浩市

笠井信輔

フリーアナウンサー

1987年フジテレビアナウンス部入社後2019年10月よりフリーになる。
趣味の映画鑑賞は新作映画を年間130本以上スクリーンで観るほど。
舞台鑑賞は特にミュージカル、とりわけ宝塚歌劇団好き。

オフィシャル・ブログ
笠井TIMES『人生プラマイゼロがちょうどいい』

オフィシャル・インスタグラム
shinsuke.kasai