笠井アナの「僕のえいがの百三十科」#177

由宇子の天秤   マイ・ダディ MINAMATA―ミナマタ―

 

ジャーナリズムを問う力作を2本紹介。実はもう一本。自殺した中学生の悲劇の父がモンスター級のクレイマー(古田新太)でワイドショーが面白おかしく取り上げた結果…という衝撃的感動作「空白」。映画が描くテレビはたいてい悪者扱い。仕方なしか。

  由宇子の天秤

一体何が真実なのか?そして、正しさとは何なのか?

Ⓒ2020 映画工房春組 合同会社
9月17日(⾦) 渋谷ユーロスペース他全国順次ロードショー

 
 長編2本目の監督が自ら資金を集めて作り上げた見事、かつ今年の日本映画大収穫の一本。いじめ自殺の真相を追うドキュメンタリー番組のディレクター(瀧内公美)が、自分の父親(光石研)から衝撃の告白をうけてしまうのが物語の発端。

 日本映画は大体、10年以上前の過去のTV界の実態をまるで今の問題のように描くのが定石だが、本作はTVディレクターが抱える苦悩をかなり正確に描いているところが驚きであり、見どころだ。家族を守りたい、しかし、その行為が社会正義に反するものだったら? 特に報道マンは正義感で仕事と向き合っているので、自己矛盾に行き詰まってしまうのだ。瀧内は内に秘めたるものを持つ影のある人物を演じると特に光るものがある。その彼女が招いた衝撃的な結末。そして、幕切れに彼女が取った行動をあなたはどう解釈するか。必見。


監督・脚本・編集:春本雄二郎

キャスト:
瀧内公美 河合優実 梅田誠弘 松浦祐也 和田光沙
池田良 木村知貴 川瀬陽太 丘みつ子 光石研

   マイ・ダディ

確かめようのない過去。
それでも愛する娘を救いたい――

Ⓒ2021「マイ・ダディ」製作委員会
9月23日(木・祝) より全国ロードショー
 
 ついに人気者のムロツヨシ初主演映画が公開される。遅すぎるくらいだ。しかも得意のコメディーではなく、涙なくしては見られない感動作。やさしい牧師(ムロ)の娘が白血病になる導入に、「また難病もの?」と思うことなかれ。この物語は、看取りで涙を誘う映画ではなく、父がプライドを捨て「本当の父親」を捜す。娘に命を与えようという映画なのだ。

 ムロはいつものおちゃらけを封印、しかし、持って生まれた温かさとほのかなおかしみでペーソスを感じさせるのが好感。さらに、本格演技は初めてという300人の中から選ばれた中田乃愛がすがすがしい存在感で、フレッシュにけなげな娘を演じきった。妻役は飛ぶ鳥を落とす勢いの奈緒。主人公の物語と、妻の物語がそれぞれの視点で描かれるのだが、2つの物語が交差するギミックに、観客はえも言われぬ興奮を味わうことになる。


監督:金井純一
脚本:及川真実 金井純一


キャスト:
ムロツヨシ 奈緒 毎熊克哉 中田乃愛 臼田あさ美
徳井健太(平成ノブシコブシ)永野宗典 小栗旬 光石研

  MINAMATA―ミナマタ―

伝説の写真家ユージン・スミスと水俣の実話から生まれた衝撃の感動作

Ⓒ2020 MINAMATA FILM, LLC
9月23日(木・祝) よりTOHOシネマズ 日比谷他全国公開

 
 傑作。まずは、そう言わせてほしい。ジョニー・デップが水俣病を描く。なぜアメリカ人のジョニーが、なぜ今頃? 何か場違いな感じで試写を見て…激しく感動してしまった。水俣病闘争にこんな事実があったなんて…。しかも、まだ闘争は続いている。

 日本の水銀被害の取材で来日したアメリカの有名カメラマン(ジョニー・デップ)と圧力で事実を隠蔽する企業側の信じがたい闘いの記録をドラマチックに描いている本作。見終わって驚いたのはスタッフロール、ほとんど外国人なのだ。主要キャストは真田広之、國村隼、加瀬亮、浅野忠信とハリウッドで活躍する日本人俳優がズラリ。ストレートに企業批判をする作風に、これは日本では作れないと感じた。昭和の日本を再現するためにほとんどを海外でロケ。被害者とその家族の魂の叫びを伝えようとするハリウッドの底力を見た思いがした。もかとお金をかけた超大作! マジ面白い! これをシネコンの大スクリーンで見ずしてどうするんですか!


監督:アンドリュー・レビタス
脚本:デヴィッド・ケスラー

キャスト:
ジョニー・デップ 真田広之 美波 國村隼
加瀬亮 浅野忠信 岩瀬晶子 ビル・ナイ

笠井信輔

フリーアナウンサー

1987年フジテレビアナウンス部入社後2019年10月よりフリーになる。
趣味の映画鑑賞は新作映画を年間130本以上スクリーンで観るほど。
舞台鑑賞は特にミュージカル、とりわけ宝塚歌劇団好き。

オフィシャル・ブログ
笠井TIMES『人生プラマイゼロがちょうどいい』

オフィシャル・インスタグラム
shinsuke.kasai