笠井アナの「僕のえいがの百三十科」#178

 燃えよ剣   CUBE 一度入ったら、最後  歩きはじめる言葉たち 漂流ポスト3・11をたずねて

 

取り上げられませんでしたが、「護られなかった者たちへ」が映画賞ものの素晴らしい仕上がりです。東日本大震災を本格的にベースにした殺人ミステリー。エンタメ界のこうしたアプローチも震災を今に伝える重要な役割だと感じます。

  燃えよ剣

「新撰組」と副長・土方歳三を描き切る。歴史スペクタクル超大作の誕生!

Ⓒ2021「燃えよ剣」製作委員会
10月15日(⾦) より全国ロードショー

 
 大名の引っ越し、藩の会計係の奮闘、漫画原作のフィクションなど、近頃変化球で私たちを楽しませてくれる時代劇であるが、久しぶりに王道の骨太な大作時代劇を堪能した。
 題材は幕末の新撰組。主人公は土方歳三、演じるのは岡田准一、そして監督は原田眞人。これで全てにおいて本格的にならないはずがない。原田監督らしく幕末という時代を俯瞰して、なぜ新撰組が生まれたのか、そしてどのように滅んでいくのかまで余すところなく描く。

 岡田准一が殺陣師として参加したアクションが大いなる魅力だ。時代劇特有の美しい殺陣から進化した、殴る蹴るをふんだんに盛り込んだ生き抜くための「喧嘩殺法」が迫力満点。疲れを見せない「るろうに剣心」の殺陣とは百八十度違うマインドなのだ。その岡田准一は期待を超える活躍とかっこよさ。大きなスクリーンで味わいたい時代劇となった。


監督・脚本:原田眞人
原作:司馬遼太郎「燃えよ剣」(新潮文庫刊/文藝春秋刊)

キャスト:
岡田准一 柴咲コウ 鈴木亮平 山田涼介 尾上右近 伊藤英明

   CUBE 一度入ったら、最後

この部屋に一度入ったら、最後。

Ⓒ2021「CUBE」製作委員会
10月22日(金) より全国ロードショー
 
 今年ノリにノッてる菅田将暉があの「CUBE」に挑んだ。1997年に作られた傑作密室スリラーを「20年以上前のものをなぜ今?」と思うが、答えは簡単。今の若い子たちはあの面白さを知らないからだ。

 ムロはいつものおちゃらけを封印、しかし、持って生まれた温かさとほのかなおかしみでペーソスを感じさせるのが好感。さらに、本格演技は初めてという300人の中から選ばれた中田乃愛がすがすがしい存在感で、フレッシュにけなげな娘を演じきった。妻役は飛ぶ鳥を落とす勢いの奈緒。主人公の物語と、妻の物語がそれぞれの視点で描かれるのだが、2つの物語が交差するギミックに、観客はえも言われぬ興奮を味わうことになる。


原 作:ヴィンチェンゾ・ナタリ「CUBE」             
監 督:清水康彦

キャスト:
菅田将暉、杏、岡田将生、田代輝、斎藤工、吉田鋼太郎

  歩きはじめる言葉たち 漂流ポスト3・11をたずねて

大切な人に思いを届けたい。心の拠り所として存在する「漂流ポスト」と人の物語。

Ⓒ2021 Team漂流ポスト
10月8日(金)~フォーラム盛岡先行、
10月16日(土)~ユーロスペースほか全国順次公開

 
 胸が詰まる思いがした。目に涙をためてしまった。佐々部清監督が描こうとしていた東日本大震災の「漂流ポスト」。亡くなった人に手紙を送るポストである。ところがその佐々部監督が急死。野村展代プロデューサーが思いを継いで、監督として作り上げた。

 驚いた。それは、10年たって役割が重くなっている漂流ポストを描く一方で、かつて佐々部作品で主演を務めた俳優の升毅が、佐々部組のスタッフ・俳優を巡りながら漂流ポストに投函する手紙を書いてもらう「旅」も追う、2重らせん構造のドキュメンタリー。
 どの手紙も心を打つものがあった。極めてパーソナルな思いに満ちた作品であるのに、とても普遍的な作品として完成させているのだ。旅の最後、升毅が漂流ポストに入れた手紙の「言葉」がいつまでも心に残る。自分も大切に思う人への「言葉」が自然と思い浮かんだ。


監督、プロデューサー:野村展代

キャスト:
升毅

笠井信輔

フリーアナウンサー

1987年フジテレビアナウンス部入社後2019年10月よりフリーになる。
趣味の映画鑑賞は新作映画を年間130本以上スクリーンで観るほど。
舞台鑑賞は特にミュージカル、とりわけ宝塚歌劇団好き。

オフィシャル・ブログ
笠井TIMES『人生プラマイゼロがちょうどいい』

オフィシャル・インスタグラム
shinsuke.kasai