笠井アナの「僕のえいがの百三十科」#180

偶然と想像   ただ悪より救いたまえ ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男

 

正月興行真っただ中、今年は、18年ぶりに新作が公開された「マトリックス」の最新作に大注目。さらに、スピルバーグ版「ウエスト・サイド・ストーリー」も!と言いたかったが、突然2月に公開が延期になってしまった。なぜ? 待ち遠しいなあ。

  偶然と想像

「偶然」。それは、人生を大きく静かに揺り動かす。

Ⓒ 2021 NEOPA / Fictive
12月17日(⾦) よりBunkamura ル・シネマほか全国公開

 
 夏にこの連載で「濱口竜介監督は日本映画の重要人物なのだ」と書いたのを覚えているだろうか? カンヌ国際映画祭・ベネチア国際映画祭に続いて、ベルリン国際映画祭では本作で審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞。世界3大映画祭を制覇してしまった男である。

  今作は「偶然〇〇した」をテーマに3つの独立した短編映画を集めたオムニバス映画である。①親友から気になる男性の話を聞いたヒロインにまつわる偶然の人間関係、②偶然テレビを見ていたら、自分を落第させた教授が芥川賞を取ったところから始まる復讐劇、③故郷で高校時代の親友と出くわして意外なことが判明する偶然の再会。もうどれもが面白い。とにかく脚本のうまさにうなってしまう。そして、ここでも感情を入れない濱口流演出方法が効果を発揮している。改めて記す。濱口竜介監督は日本映画界の今や【最】重要人物だ!


監督・脚本:濱口竜介

キャスト:
古川琴音 中島歩 玄理 渋川清彦 森郁月 甲斐翔真 占部房子 河井青葉

  ただ悪より救いたまえ

殺し合う理由。そんなものは忘れた―。

Ⓒ 2020 CJ ENM CORPORATION, HIVE MEDIA CORP. ALL RIGHTS RESERVED
12月24日(⾦)よりシネマート新宿、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国ロードショー


 ほんと悔しいが、またも韓国映画に打ちのめされてしまった。凄腕の「暗殺者」と凶暴な「殺し屋」がバンコクで激突するノワールアクション大作。  「暗殺者」がある少女を助けようとタイに乗り込んでいくバトルアクションに、暗殺者に兄を殺された「殺し屋」が復讐のために暗殺者を追いかけ次々と殺戮を繰り返すという2つの物語が絡み合って、タイでクライマックスを迎える。さすがのロケ地チョイス。

 東南アジアのアクション映画というのは、「ザ・レイド」や「マッハ!」を見てもわかる通り、スタントマンが命がけすぎて「ヤバい」(笑)。韓国や日本では撮影許可が下りないようなアクションが可能になり、本当に誰か大怪我をしているんではないかと思うような迫力のシーンが生まれるのだ。コロナ感染拡大の前に撮影されたと聞いて納得した狂気が炸裂するアクション映画だ。


監督・脚本:ホン・ウォンチャン


キャスト:
ファン・ジョンミン、イ・ジョンジェ、パク・ジョンミン

  ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男

真実に光をあてるために、どれだけのものを失う覚悟があるのか。

Ⓒ 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.
12月17日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかロードショー

 アメリカ映画の実話の映画化の容赦なさ加減に改めて圧倒された。十数年間にわたって、巨大企業との戦いを繰り広げた1人の弁護士の実話である。  フライパンのテフロン加工を発明したアメリカの超有名企業デュポン社が発がん性有害物質の危険性を40年間も隠蔽し、大気中や土壌に垂れ流してきたという事実を信じられないような地道な調査と粘り強い交渉によって明らかにしていく。それはとてつもなく深い人間ドラマであり、さらには企業サスペンスでもある。環境問題の実話をこうしたエンターテインメントの作品に仕上げていくうまさに感心させられた。

  主人公を演じるマーク・ラファロ(超人ハルクの人ね)が自らの執念で映画化。その情熱がスクリーンに溢れ出ていて、多くの関係者が存命ではないかという中でこれだけの問題作を作り上げるその覚悟に大いなる感銘を受けた。


監督:トッド・ヘインズ

キャスト:
マーク・ラファロ アン・ハサウェイ ティム・ロビンス
ビル・キャンプ ヴィクター・ガーバー ビル・プルマン

笠井信輔

フリーアナウンサー

1987年フジテレビアナウンス部入社後2019年10月よりフリーになる。
趣味の映画鑑賞は新作映画を年間130本以上スクリーンで観るほど。
舞台鑑賞は特にミュージカル、とりわけ宝塚歌劇団好き。

オフィシャル・ブログ
笠井TIMES『人生プラマイゼロがちょうどいい』

オフィシャル・インスタグラム
shinsuke.kasai