自律神経は体への「刺激」で変化する

いきいきと年齢を重ねる④

 私たちは、歩行で足裏を刺激したりハンドクリームの塗布で手を刺激したり、ふだん意図せず体を刺激しています。これらは皮膚や筋肉を直接刺激するだけでなく、その神経を活性化させることで内臓や脳の働きにも影響を与えることがわかってきました。この仕組みの応用により、内臓の働きの調整や脳の活性化も実証され始めています。

自律神経に「反射」が影響

 それだけではありません。自律神経は皮膚や筋肉への刺激によっても影響を受けます。それは単に心地よさや不快感、痛みなどの感覚がもた それだけではありません。自律神経は皮膚や筋肉への刺激によっても影響を受けます。それは単に心地よさや不快感、痛みなどの感覚がもたらす心理的な影響からだけではありません。皮膚や筋肉が刺激されると、その情報は神経によって脊髄や脳へ伝えられます。このとき情報の一部は、意識とは無関係に自律神経に作用する「反射」(刺激に対して起きる不随意の筋収縮)によって自律神経を刺激し、内臓の動きや血流を調節します。運動やマッサージ後に体調がよくなるのは、このような「反射」の影響も含まれているからなのです。

内臓、認知機能への作用

  私たちチームが動物を用いて行った研究では、皮膚への刺激で心臓の拍動が調節されたり、胃腸や膀胱の収縮が調整されたりすることが明らかになりました。例えば膀胱に尿が溜まって排尿しようとするときに下半身の皮膚を刺激すると、膀胱の収縮が抑えられます。この作用はヒトでも確認され、「過活動膀胱」の患者さんに就寝前に下半身の皮膚へ軽い刺激を加えてもらったところ、多くの方の夜間排尿回数を減少させることができました。
 また他の研究で、手足への刺激が脳の働きを活発化させることもわかってきました。歩行で足裏を刺激したり、手足をこすったり、鍼治療で手足を刺激すると、脳血流が増えて脳に酸素や栄養がたくさん供給されることが明らかとなったのです。さらに、知能に大事な働きがあるアセチルコリンや脳の神経細胞が死なないように保護する神経成長因子(NGF)という物質も、手足の刺激で増えることが判明しました。このことを考えると、手足の刺激の継続によって認知症を予防することができるようになるかもしれません。
 心理的な影響と体への刺激(体性感覚刺激)の影響は、車の両輪のように神経に働きかけると考えられ、運動機能の衰えた高齢者は特に、皮膚への刺激が重要な役割を果たすといってよいでしょう。

監修
堀田 晴美

ほった・はるみ

東京都健康長寿医療センター研究所

https://www.tmghig.jp/research/

北海道大学理学部卒業後、東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター研究所)に入所、2016年より研究部長。理学博士。老化や体への刺激が自律神経活動、ホルモン分泌に与える影響を研究している。