B型・C型慢性肝疾患「肝細胞がん」

40代から増加し始める”沈黙の臓器”の病気

 部位別がん死亡数が、男性の上位に位置する肝臓。炎症やがんがあっても最初は自覚症状がほとんどないため、発見が遅れがちです。特に健康診断などで肝機能の異常や肝炎ウイルスの感染などを指摘された人は、定期検査が不可欠です。

肝細胞がんとは

 腹部右上にある肝臓は体内最大の臓器です。主な役割は、食事の栄養分を取り込んで体に必要な成分に変えることや、体内でつくられた有害物質や体外から摂取された有害物質を解毒・排出することです。また脂肪の消化を助ける胆汁もつくります。

 肝細胞がんは、肝臓の細胞が悪性腫瘍になったものです。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれていて、炎症やがんがあっても最初は自覚症状があまりありません。進行すると腹部のしこりや圧迫感、痛みなどを感じます。肝細胞がんや肝内胆管のがんと新たに診断される人数は、1年間に10万人あたり男性43・1人、女性19・7人。40代から増加を始め、80歳前後でピークを迎えます。

肝細胞がんのリスク因子

  肝細胞がんの背景の多くは、元来B型またはC型慢性肝疾患でした。その他アルコール摂取もあげられますが、近年では非アルコール性脂肪性肝炎も発がん因子として増加傾向にあります。

 発がんのリスク因子を有する場合には、定期検査がすすめられます。腫瘍マーカーでモニタリングし、超音波検査やCT検査、MRI検査などの画像検査を3.4カ月ごとに行います。B型・C型肝疾患の原因となるB型・C型肝炎ウイルスを駆除する治療も進んでいます。ウイルス陰性化が達成されると発がんの割合が低下するといわれていますが、その半面、陰性化後に定期検査を中断してしまい、肝細胞がんが大きくなってから発見されるケースも散見され、問題となっています。根治治療をした後でも再発リスクはゼロではなく、また慢性肝炎・肝硬変がある限り新たな発がんの可能性があるため、定期検査は欠かせません。

肝細胞がんの治療

 肝細胞がんの治療は手術、経皮的ラジオ波焼灼術、カテーテル治療、放射線治療、薬物療法などと多岐にわたります。がんの進行度、肝予備能、全身状態などを考慮し、トータル的に、それぞれの患者さんにとってベストな治療方法を検討します。

 根治治療が期待できる場合は局所治療を検討します。局所治療が困難な腫瘍でも肝動脈化学塞栓療法が可能です。また近年進歩が目覚ましいのが薬物療法で、カテーテル治療だけではコントロールが困難な場合や、肝臓以外に転移を伴う場合など、全身治療としての薬物療法を検討することになります。他に、まず薬物治療で腫瘍を縮小させ、その後にカテーテル治療を行うことで治療効果を高める治療戦略も開発されています。

監修
津田 享志

つだ・たかし

医療法人徳洲会 湘南藤沢徳洲会病院
肝胆膵・消化器病センター腫瘍内科部門 部長

https://fujisawatokushukai.jp/

2000年聖マリアンナ医科大学卒業。日本内科学会認定内科医。日本消化器内視鏡学会専門医。日本消化器病学会消化器病専門医指導医。日本がん治療認定医機構がん治療認定医。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医。